悪夢が消える!?ピアノコードとイメージ書き換えによる新アプローチ

サイエンスコラム

寝ている間に恐ろしい夢を見て、飛び起きてしまう――。

悪夢に悩む人は意外に多くいます。

悪夢が続くと、睡眠の質が低下するだけでなく、日中の集中力や気分にも大きな影響を及ぼします。

ところが最近、一つのピアノの和音を使いながら夢の内容をポジティブに書き換えるだけで、悪夢の頻度を驚くほど減らせるという研究結果が報告されました。

本記事では、その研究の内容と具体的なアプローチについてわかりやすくご紹介します。


悪夢はなぜ起こり、どんな影響があるのか

悪夢を単なる「嫌な夢」と捉えて放置していると、深刻な睡眠障害やメンタル面の不調へとつながりかねません。

もし「毎週のように恐怖にうなされる」状態が続くなら、専門用語で「ナイトメア障害(Nightmare Disorder)」に該当する可能性があります。

こうした状態が長引くと、以下のような影響が懸念されます。

  • 睡眠の質の低下:夜中に何度も目覚めてしまい、熟睡できなくなる
  • 日中のパフォーマンス低下:集中力が落ちたり、気分が不安定になりやすくなる
  • ストレス増加の悪循環:眠れないこと自体がストレスとなり、さらに悪夢を呼びやすくなる

悪夢の背景には、過度のストレスやトラウマがある場合もあれば、生活リズムの乱れが誘因になる場合もあります。

特にパンデミック期には、生活環境の変化から睡眠リズムが崩れ、悪夢を見やすくなったとの報告もあります。

「嫌な夢くらい大丈夫」と我慢するのではなく、質の高い睡眠を取り戻すためにも、根本的な対策を考えることが大切です。


ピアノコード×イメージ書き換えがもたらす劇的効果

36名のナイトメア障害患者を対象とし、以下の2つの手法を組み合わせることで、悪夢を大幅に減らせる可能性が示唆されました。

1つ目は、イメージ・リハーサル・セラピー(Imagery Rehearsal Therapy:IRT)と呼ばれるアプローチです。

これは繰り返し見る悪夢を思い出し、その結末をポジティブな方向に書き換えて、頭の中で何度もリハーサル(イメージ)するというもの。

たとえば「何かに追い詰められる夢」であれば、最後は自分が勇敢に切り抜けるストーリーを作ってイメージし続けることで、実際に見る夢の内容を上書きしようとする方法です。

2つ目は、ターゲット・メモリー・リアクティベーション(Targeted Memory Reactivation:TMR)と呼ばれる技術です。

これは、起きている間に学習した情報やイメージに関連付けた「音」「匂い」などの刺激を睡眠中に再度提示し、脳内でその記憶を強化・再活性化しようとするもの。

今回の研究では「C69」という特定のピアノの和音が使用されました。

実験の流れは次の通りです。

  1. IRTの実施
    • 患者それぞれがよく見る悪夢を、ポジティブなストーリーに書き換える。
    • その改変した夢のイメージを、起きている間に5分ほど繰り返し思い浮かべる。
  2. 和音の関連付け
    • 新しい夢のシナリオをイメージしている最中に、C69のピアノコードを何度も鳴らして“音の刺激”とポジティブなイメージをリンクさせる。
  3. 睡眠時の音刺激
    • 参加者はレム睡眠(夢を見やすい段階)を検出できるヘッドバンドを装着して就寝。
    • レム睡眠が検出されると、一定の間隔でC69を再生して脳内に音の刺激を届ける。

実際の結果を見ると、2週間後には、ピアノコードを用いたTMRをあわせて実施したグループで悪夢の回数が劇的に低下。

1週間あたり平均2~3回あった悪夢が0.2回程度にまで減り、比較対象となるIRT単独のグループよりも顕著な効果が表れました。

さらに、単に悪夢が減るだけでなく「ハッピーな夢を見ることが増えた」という報告もあり、ポジティブな記憶や感情が夢全体を塗り替える効果が示唆されます。

また興味深い点として、3か月後にフォローアップした際も、この悪夢の減少傾向がある程度維持されていたことが挙げられます。

完全になくなったわけではないものの、著しい頻度上昇には至らず、ポジティブな夢や感情が持続しやすい傾向が見られたそうです。

TMRにおいては「どんな音でもいい」というわけではありません。

脳にとってある程度気づくか気づかないかくらいの低い音量が重要で、さらに日中に結び付けたイメージとの関連性もカギになります。

今回はピアノコードを選んだことで、心地良い音のイメージを強めた可能性があると研究者らは推測しています。


まとめ

たった一つのピアノコードとイメージの書き換えを組み合わせるだけというシンプルな方法で、長年苦しんできた悪夢の頻度が大きく下がる――。

この研究成果は、多くの悪夢に悩む方にとって大きな希望といえそうです。

イメージ・リハーサル・セラピー(IRT)は以前から悪夢治療として一定の効果が認められてきましたが、そこに音刺激を加えるターゲット・メモリー・リアクティベーション(TMR)が、より速く・より深いレベルでポジティブな感情や記憶を定着させる可能性を示唆しています。

もちろん、まだ研究段階であり、適用には専用ヘッドバンドや日々のイメージ練習といった準備が必要です。

また、悪夢の原因が強いストレスやトラウマに根差している場合は、心療内科やカウンセリングなどの専門的サポートも視野に入れることが望ましいでしょう。

それでも、新しい治療の選択肢が増えることは、悪夢に悩む方々にとって大変心強い話です。

睡眠外来や専門家のアドバイスを得ながら、IRT+TMRのアプローチを試してみることで、より安定した睡眠とポジティブな夢を得られるかもしれません。

参考文献
Nightmares Can Be Silenced by a Single Piano Chord, Study Shows
https://www.sciencealert.com/nightmares-can-be-silenced-by-a-single-piano-chord-study-shows
Enhancing imagery rehearsal therapy for nightmares with targeted memory reactivation
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.09.032
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